第5回 命を守れるのはあなた自身

肥田舜太郎さんの講演より

広島で陸軍病院の軍医をしているときに被ばくをして、たまたま私は助かりました。その後、放射線がそのようにして人を殺していくのかということを体験してきました。体験に基づくと、これから起こることは医学では全く分からないので心配しています。

放射線は臭いも色もなく、見た人はいないのです。でも、今の医学では解決できない深刻な被害を与えます。この放射線の使い方を間違えると人類は滅びるかもしれません。もし事故を起こさなくても法律で決められた範囲で放射線を外部に洩らしています。その法律を作った人は放射線を作る専門家なので、放射線を人間が浴びたらどうなるのか全く知らない人たちです。そんな間違った世界になっています。

まず、放射線が何かということを説明します。放射線というエネルギーを出す物質があります。それはとっても小さな粒で、大きさは1mmの60億分の1です。その粒が体の外にあって放射線を浴びる場合が外部被ばくです。放射線を空気や水と一緒に吸い込む、または、食べものと一緒に食べてしまうことを内部被ばくといいます。体の中から悪い放射線を出して、命の元から壊してしまいます。

今、福島の子どもたちは内部被ばくを受けています。日本は世界で初めて内部被ばくの被害を受けました。広島と長崎の人たちが、今日まで内部被ばくで亡くなり続けています。それだけの経験をしながら、日本政府は何一つ学んでいないんです。これは本当に恐ろしいことなんです。何十万という人が死んだんです。その体験は家族や生き残った人たちに痛いほど伝わっているのに、何人被ばくしたか何人死んだのか、二世は何人いるのか何一つ調査してません。

私は、66年間被害を受けた人たちとつきあってきました。時には医者であることを後悔して苦しんでいました。病気の本体も直す方法も分からないのに、患者は「たすけてください」と叫びました。どうしたらいいんだろう? 今の医学は患者の苦しみに何も応えてくれません。そこで、私は「本当の医者」になろうと思い、今日まで苦労してきました。

私が被爆者にしてきたことは、かかった病気を治すことではなかったのです。なにをするのか? 「あなたの命を持っているのはあなたですよ。私はあなたの命の外にいます。あなたの命を守れるのはあなた自身です。理想的な生活を続けて、自分が持っている免疫力を大事にしてください。それしか放射線に勝つ方法がありません」といって励ましてきました。

被ばくしたことを喋ると、差別を受けました。そのために自分が被ばくしたことを隠して結婚して、夫にも生まれた子どもにも知られないようにしてきた女性がたくさんいます。何の意味もない、何の根拠もないのにこの人たちを差別した日本人。この人たちが、このような大きな経験をしたのに、放射線に全く関心を持たないで、今日まで原発を許してきたのです。こんなもの作っちゃいけないんです!こんな狭い日本に!53基も! そして、法律で許されるからって、日常的に放射線を洩らし続けました。その放射線でガンが、特に乳ガンが増えました。50年間に4.8倍にも。被害を受けながら何にも知らないでいたのです。今の地球の上で安全に長生きしようと思ったら、もっと神経を立てて自分の健康を守ることに一生懸命にならないといけません。

東京都でも、私の住んでいる埼玉県でも、関東平野では、もうほとんどの人が被ばくをしてます。でも、こうやったら絶対大丈夫という生き方を知っている人は、世界中に一人もいません。

命を持っている本人が放射線と戦って、放射線が発病させる病気を予防して生き延びていくしかないです。勝てば生き延びられるけど、負ければ後遺症でやられるかもしてない。それはご本人次第です。

みなさんには、人類が時間をかけて作りあげた放射線への免疫力があります。4千万年前ぐらいに、人類はこの地球に生まれました。最初の頃は、天空から来る紫外線と放射線でどんどん死んでいきました。そして長い間をかけて、紫外線と放射線に負けないような免疫を作り上げてきた。そして、今では、大人はまったく問題ないレベルにまで達しました。しかし、10万人に2人の赤ちゃんには、なにかの問題を持って生まれてきます。完全ではないが、そのぐらいまでは大丈夫になりました。

人工放射線は自然放射線と全く同じだという学者がいます。でも、人間は自然の物と人工の物を敏感に見分けます。だから、工場で作った放射線には全く抵抗できません。これからみなさんは、たちの悪い人工放射線とぶつかりながら生きていくことになります。

薬もダメ、注射もダメ、中に入った放射線を取り除くこともできない。そうなると、自分の命ができることで予防するしかないのです。そうやって、生き延びて、しかも健康な被爆者がたくさんいます。今、原爆から生き延びている人が20万数千人います。

放射線による病気どのようなものがあるか紹介します。一つは「ブラブラ病」といわれる慢性の放射能症。内部被ばくで放射線が体内に入ったまま、いろんな症状を出します。この症状を出しても、今のお医者さんが、どんな検査をしても病気の痕跡が分からないのです。みなさんも「だるい、疲れた」ということを経験されてますよね。でも、この被爆者が経験しただるさは特殊です。元気だったのが急に力がなくなって座ってることもできなくなり、横になってしまいます。何度もそれを繰り返し、働けなくなってしまいます。自分は働きたいんだけどできない。それを誰も理解してくれない。それで苦しんで自殺をした人が何人もいます。

そういう人をどうやって励まして生かすか、ということが私たち医者の苦しみでした。「あなたしか戦う人がいない。あなたが自分の命の持ち主で主人公なんだと思ってください。放射線を取って捨てることはできません。腹を据えて、覚悟して生きるしかありません」といって励ましました。

みなさんも同じです。被爆者だと覚悟してください。自分は何も悪いことをしていないのです。むこうが勝手に放射線を入れてきました。東電が悪いのです。だから、原発はすべてやめさせる、そういう運動の先頭に立って、家族の命を守らないと行けないでしょう。

そのためには、体に大切なことを守って生きていくことになります。まず第一番目に早寝早起き。みなさんの持ってる免疫は、文明が起きるずっと前に作られた物です。その時は、太陽と共に起きて働き、太陽が沈めば寝るという環境の中でできたのです。そのような条件の中で免疫が一番よく働きます。

人間がしていいことと、してはいけないことが自然に決まってます。寝ること、起きること、働くこと、食べる、排泄、そして遊ぶこと。全部、法にかなっています。人間が当然すべきことを守らないといけません。

その中で忘れていけないのは、「タバコはやめる」! タバコを吹かして「放射線が怖いんです」といわれてもお断りします。自分の命を人に何とかしてくれっていうのは、バカな話です。「自分で自分の体を守りなさい」

医者は、みなさんを治せません。知ってる理屈を教えるだけです。今の医学は間違ってます。まず病名を決めて、その治療法にに当てはめていきます。だから、本人が88才だろうと、12才の少年であろうと、同じ肺炎という名前が付くと、同じ薬が、量が違うかもしれないけど、同じように処方されます。そんな医療ありますか? 一人一人みな違うんです。

みなさんが生きていくんです。生きていく本人が自分で考え決心をし、こうしようということを一生懸命にやっていく。そうやって自分を大事にして、がんばってください。